行政書士法によれば、行政書士の独占業務は①官公署に提出する書類、②権利義務に関する書類、③事実証明に関する書類(実地調査を含む)の作成です。書類には電磁的記録が含まれます(法第1条の2)。
しかし、法第1条の2第2項には「行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。」と規定されています。この規定の裏を返せば他士業の業務範囲以外(の書類作成)はすべて行政書士が行えるということを意味します。
漫画やアニメーションに出てくるチーズに例えると、穴の部分が他士業の業務範囲、チーズの部分が行政書士の業務範囲と理解できます。穴の1つ1つが、弁理士、税理士、社労士、司法書士の作成できる書類ということになるわけです。ただし、弁護士はオールマイティですので、穴のないチーズでしょう。
ここから帰結されるのは、行政書士の書類作成権は、非常に広範囲であり、弁護士に次ぐということです。これが、行政書士と他士業(弁護士を除く)の最大の違いということになります。このため、行政書士は、建設、運輸、風営、金融、医療、介護、薬機など、専門分化が進んでおります。
一例をあげると、知的財産に関し、弁理士は特許庁に提出する書類の作成権を独占しています。具体的には、特許、実用新案、意匠、商標の手続書類です。しかし、特許庁以外が所管する知的財産に関する書類の作成、例えば、農水省の種苗法、文化庁の著作権法等に関する官公署に提出する書類の作成は、行政書士の独占業務です。(なお、弁護士、弁理士、公認会計士、税理士は、行政書士登録ができます)。
もうひとつの帰結は、他士業(弁護士を除く)は常に業務拡大の努力を続けなければならないということです。これは、デジタル化によりさらに先鋭化しています。いわゆる「チーズの穴」を広げる努力をする必要があるのですが、書類作成に関しては、常に、行政書士の業務独占に阻まれます。このため、過去、他士業の法改正においてバーター取引がなされたこともあるやに聞いております。
とはいうものの、行政書士法は、「報酬を得て」行うことを禁じているので、他士業の中には、この点を「エクスキューズ」にする方もいます。しかし、日当や相談料名目で費用を受け取ったとしても、実質的に書類作成で受け取っているとすれば、必ずしもそのような「エクスキューズ」が通るわけではありません(実質論の活用)。
しかし、自由競争の例外は、最小限であるべきとの考え方に立てば、「報酬を得て」行うことのみを禁ずることには、一定の合理性があると思います。やはり、弁護士法も、「業として」[報酬を得る目的で]行うことを禁じています。いずれも、業務範囲の広大さに関連があると考えられます。
他方、司法書士、税理士の業務に関しては、報酬の有無にかかわらず、[他人の依頼を受けて]その業務を行うことが禁圧されています。これは、その業務の重要性もさることながら、業務範囲が、「チーズの穴」のように限られているからこそ、可能なわけです。そうでなければ、国民生活を大きく制限してしまうことになります。
世の中は、自由競争が大原則で、職業選択の自由を妨げる規制は、必要最小限に限られるべきです。もし、悪質なコンサルティングが跋扈する場合には、まずは、行政において登録制度を設けるなどして、補助金の対象を絞るなどの対策があります。それから、許認可等の高いハードルまで、様々な規制のバリエーションをあたかもグラデーションのように、個別に検討・設定していけばいいと思います。(実際にもそうなっていると思います)。
士業団体は、みだりに独占業務の範囲を拡大しようと考えるべきではありません。もし、独占業務の拡大をしたいのであれば、自由競争の例外とするべき正当化事由を、ほかの手段では無理だというレベルにまで高めたロジックにより、主張する必要があります。あるいは、あくまで、自由競争の一員として、「その名称を用いて」、当該業務を「行うことができる」とするにとどめるべきでしょう。
いずれにしても、行政書士は、弁護士に次ぐ広大な業務範囲を有しております。この業務範囲と、公共政策ファシリテーター(2019.02.08ブログ)としてのアイデンティティが合わされば、その可能性は無限にあると、私は思います。なおかつ、自由競争の一員としての活動も合わせ技とすれば、もはや最強ではないでしょうか。
行政書士の業務範囲が、穴の開いたチーズのような性質を有していることを、しっかり意識して、行政書士法を読むと、行政書士には様々な可能性が見えてくると思います。